肩関節脱臼とは

肩関節脱臼は、上腕骨の骨頭(上腕骨頭)が肩甲骨の関節窩から外れた状態です。肩関節は体の中で最も動く範囲が広い関節ですが、その分、骨どうしの支えが少なく、関節唇・関節包・関節上腕靱帯といった軟部組織と腱板などの筋によって安定性が保たれています。
転倒して手をついたときや、タックルなどで腕を後ろに持っていかれたときに、骨頭が前方へ外れる「前方脱臼」が多くを占めます。
外れた肩は整復で元の位置に戻ります。しかし、肩関節脱臼で本当に問題になるのは「一度外れた肩が、なぜまた外れやすくなるのか」という点です。特に10〜20代のスポーツ選手では、再び脱臼する割合が高いことが報告されています。整復して終わりではなく、外れたときに関節の中で何が損傷したのかを把握することが、その後の経過を左右します。
肩関節脱臼の主な症状
- 強い痛みで腕を動かせない
- 肩の丸みがなくなり、肩先が角張って見える
- 腕を体から少し離した位置で固まり、反対の手で支えている
- 肩の外側(三角筋のあたり)のしびれや感覚の鈍さ
- 手や指先のしびれ、冷え
肩の外側のしびれや感覚の鈍さは、腋窩神経の損傷を示している場合があります。神経や血管の状態は、整復の前と後の両方で確認が必要です。
【所見】じゅん整骨院での病態把握
問診では、受傷したときの腕の位置、初めての脱臼か繰り返している脱臼か、競技やポジションを確認します。視診・触診で変形・腫れ・押したときの痛みの位置を確認し、三角筋部の感覚、手首の脈、指の動きから神経と血管の状態を評価します。これらの徒手検査と、必要に応じたエコーの所見を合わせて、総合的に判断しています。
エコー(超音波画像観察装置)で確認すること

- 上腕骨頭と関節窩の位置関係(脱臼しているか、整復後に正しい位置に戻っているか)
- 上腕骨の大結節に骨折がないか
- 上腕骨頭の後外側の陥没(Hill-Sachs損傷)を疑う所見がないか
- 棘上筋腱など、腱板の連続性が保たれているか
- 関節の中に血腫や液体がたまっていないか
救急医療の分野では、エコーによる肩関節脱臼の判定・整復の確認・合併骨折の検出について、高い精度が報告されています(Gottlieb ら, 2022)。また、前方脱臼240例を調べた研究では、約6割に腱板断裂、腋窩神経損傷、大結節骨折などの合併損傷がみられ、徒手検査と画像による詳細な評価が必要とされています(Atef ら, 2015)。
一方で、関節唇の損傷や関節窩の骨欠損など、エコーだけでは十分に評価できない部位もあります。合併損傷が疑われる場合は、X線・MRI・CTによる精査のため、整形外科をご紹介します。
【仮説】肩関節脱臼はなぜ繰り返すのか
前方脱臼では、骨頭が前下方に外れる際に、関節窩の前下方にある関節唇と下関節上腕靱帯が骨から剥がれることがあります(Bankart損傷)。この部分は、骨頭が前方へずれるのを止める役割をもっています。ここが十分に修復されないまま経過すると、腕を挙げて外にひねる姿勢(外転・外旋位)で、骨頭が前方へ滑りやすい状態が残る可能性があります。
さらに、骨頭の後外側が関節窩の縁にぶつかってできる陥没(Hill-Sachs損傷)が大きい場合には、特定の角度で骨頭が関節窩の縁に引っかかりやすくなるとされています。
年齢も大きく関係します。初めて前方脱臼した15〜25歳を対象にしたメタ分析では、保存療法後の再脱臼率は平均約25%、手術後は約16%と報告されています(Cutteridge ら, 2024)。ランダム化比較試験のみを統合した解析では、平均23歳前後の患者で、固定のみの群の再不安定性は46.6%、手術群は6.3%でした(Belk ら, 2022)。
| 再脱臼に関わる要因 | 内容 |
|---|---|
| 構造的な要因 | 関節唇・下関節上腕靱帯の損傷(Bankart損傷)、関節窩の骨欠損、Hill-Sachs損傷 |
| 機能的な要因 | 腱板・肩甲骨周囲筋による動的な安定化の不足、関節の位置感覚(固有受容覚)の低下 |
| 患者側の要因 | 年齢が若いこと、コンタクトスポーツや腕を頭上に挙げる競技への復帰 |
| 経過上の要因 | 組織の修復が進む前の早すぎる競技復帰、段階を飛ばした負荷の増加 |
【介入根拠】じゅん整骨院での処置と施術

1. 整復と医療機関との連携
脱臼した肩は、脱臼の方向や骨折の有無を確認したうえで、応急手当として整復を行います。柔道整復師法第17条により、脱臼の患部への施術は、応急手当の場合を除いて医師の同意が必要と定められています。そのため整復後は整形外科で診察を受けていただき、医師の同意を得たうえで施術を継続します。
2. 固定
整復後は、剥がれた関節唇や関節包の修復を妨げないよう固定を行います。固定の肢位については、外旋位で固定すると内旋位より再脱臼が少ない可能性を示す報告がある一方、統計的に明確な差は示されず、外旋位固定では肩のこわばりが出やすい傾向があったとする解析もあり、結論は一定していません(Karasuyama ら, 2024)。当院では、医師の指示と、年齢・競技・活動レベルを踏まえて、固定の方法と期間を決めています。
3. 物理療法
固定期間中は肩を動かせないため、物理療法で痛みや腫れ、組織の修復過程に働きかけます。痛みに対してはハイボルテージなどの電気刺激、腫れや組織修復に対しては微弱電流(エレサス)が用いられることがあります。微弱電流は損傷組織の電気的な環境に作用するとされていますが、肩関節脱臼後の経過への効果を直接示した臨床研究は限られています。
大結節骨折を伴う場合には、低出力超音波(LIPUS)が骨折の癒合を目的に用いられることがあります。ただし、骨癒合への効果については研究間で結果が一致していないため、医師と相談のうえで検討します。
酸素ボックスについては、動物研究で骨格筋損傷後の再生に関する報告がありますが(Fujita ら, 2014)、ヒトの外傷に対する効果は確立していません。当院では補助的な選択肢として位置付けています。
4. 運動療法
固定が外れた後は、関節の動く範囲を段階的に取り戻し、腱板(棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋)と肩甲骨周囲の筋による動的な安定性を高めていきます。外転・外旋位は再脱臼が起こりやすい姿勢のため、負荷をかける順番を管理しながら進めます。
| 時期 | 目的 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 受傷直後〜固定期 | 損傷組織の保護、痛み・腫れの管理 | 整復、固定、物理療法、手指・肘の運動 |
| 固定除去後 | 関節の動く範囲の回復 | 痛みの出ない範囲での関節運動、肩甲骨の運動 |
| 筋力回復期 | 動的な安定性の獲得 | 腱板・肩甲骨周囲筋のトレーニング |
| 復帰準備期 | 競技動作への適応 | 外転・外旋位での安定性の確認、競技に合わせた動作練習 |
組織修復を支える栄養

関節唇・靱帯・関節包は、コラーゲンを主成分とする組織です。修復には、コラーゲンの材料となるたんぱく質と、コラーゲンの合成に関わるビタミンCが必要とされています。
ビタミンCの補給については、動物研究でコラーゲン合成や骨癒合の促進が報告されている一方、ヒトでの臨床的な効果はまだ十分に示されていません(DePhillipo ら, 2018)。ケガの後に食事量が落ちたり、たんぱく質の摂取が少なかったりすると、修復に必要な材料が不足する可能性があります。当院では体組成計での測定と食事内容の聞き取りを踏まえて、栄養面の助言を行っています。
【予後管理】再脱臼を防ぐために
肩関節脱臼の経過は、合併損傷の有無、年齢、競技の種類によって大きく変わります。特に10〜20代でコンタクトスポーツを続ける方は、保存療法後の再脱臼率が高いと報告されているため、早い段階で整形外科の医師と、手術の選択肢も含めて相談しておくことが重要です。
- エコーで骨頭の位置や腱板の状態を定期的に再評価する
- 競技復帰の判断は、痛みの有無だけでなく、関節の動く範囲・筋力・外転外旋位での不安感を確認して行う
- 「また外れそう」という感覚(亜脱臼感)がある場合は、早めに受診する
岡山市南区西市のじゅん整骨院では、今どこまで回復しているかをエコー画像や検査結果で示しながら説明し、医療機関と連携して競技・日常生活への復帰までを管理します。
参考文献
- Gottlieb M, et al. Ultrasound for the diagnosis of shoulder dislocation and reduction: A systematic review and meta-analysis. Acad Emerg Med. 2022. DOI
- Atef A, et al. Prevalence of associated injuries after anterior shoulder dislocation: a prospective study. Int Orthop. 2015. DOI
- Cutteridge J, et al. A systematic review and meta-analysis of operative versus non-operative management for first time traumatic anterior shoulder dislocation in young adults. Shoulder Elbow. 2024. DOI
- Belk JW, et al. Shoulder Stabilization Versus Immobilization for First-Time Anterior Shoulder Dislocation. Am J Sports Med. 2022. DOI
- Karasuyama M, et al. Comparative efficacy of treatments for a first-time traumatic anterior shoulder dislocation: a systematic review and network meta-analysis. J Shoulder Elbow Surg. 2024. DOI
- Fujita N, et al. Effects of hyperbaric oxygen at 1.25 atmospheres absolute with normal air on macrophage number and infiltration during rat skeletal muscle regeneration. PLoS One. 2014. DOI
- DePhillipo NN, et al. Efficacy of Vitamin C Supplementation on Collagen Synthesis and Oxidative Stress After Musculoskeletal Injuries: A Systematic Review. Orthop J Sports Med. 2018. DOI
- 柔道整復師法 第17条(施術の制限). 衆議院 制定時の法律
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